山麓日記帳

全ては消えゆく、雨の中の涙のように

「ハウス・ジャック・ビルト」の覚書き(多少ネタバレあり)

あ。そうそう、忘れないうちに書いておこうと思ってた事があったのでした(今、思い出しました)

ラース・フォン・トリアーの「ハウス・ジャック・ビルト」を見てたら、最後の方に既視感のある構図の映像が出てくるんですよ。

それを見たワシは「あ。ザ・ポーグスの『Rum, Sodomy&the Lush』じゃん」と思い出したわけです↓

https://www.amazon.co.jp/Rum-Sodomy-Lash-Pogues/dp/B0006957S0

※タイトルは「ラム酒と男色と鞭」みたいな意味だと思うんですけど。

とてもいいアルバムで、20代の頃愛聴盤でした。

元ネタはコチラですね↓

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テオドール・ジェリコー作 「メドゥーズ号の筏」( Le Radeau de la Méduse)

1819年の絵です。

1816年にモーリタニア沖で起きたフランス海軍のフリゲート艦メドゥーズ号が難破した事件に基づいて描かれた実物大の絵ですね。

147人の人が海に投げ出されながらも生きてたはずなのに、15日後救出されたのはたった15人だったという大事件でした。

飢餓、狂気、脱水、食人の果てにようやく海上で他の船を発見し、大喜びで手をふる生存者たちの姿が描かれております。

 

この「ハウス・ジャック・ビルト」という映画は自称芸術家の男が、実は芸術家にもなれず、建築家になりたかったのに自分の家一つ満足に作れず、実は才能のかけらもなかったという絶望の映画なんですが。

その映画の最後の方にこの構図の絵↑が出てくるんですよね。

死体で筏を作り、血と肉の船を漕いで、自称芸術家はどこへ向かうのか!?という痛切なシーンのはずなのに、なんとなく滑稽さが先に立ってしまって。

「こいつの自己愛、どこまで肥大させとんねん」と苦笑いしてしまうシーンでもあります。

 

そして最終章のタイトル「カタバシス」(冥界へ降りていく道の名前)

映画中に流れる若いグレン・グールドが弾くバッハ、デビッド・ボウイの「フェーム」、ウィリアム・ブレイクの水彩画。

黄金に輝く麦畑を刈り取る父親たちの姿。

地獄への道案内人が元(ベルリン天使の詩の)天使のブルーノ・ガンツな所とか。

 

すごく下品で卑属でどうしようもないサイコパスが主人公なのに、彼が殺人でしか表現できなかった芸術の姿が、彼が憧れ焦がれたものの姿がなんとなく伺える構造になっております。

そこが凡百の犯罪実録スリラー映画とは違う、ラース・フォン・トリアーの告白的自己分析っぽくもあって興味深く見ることが出来ます。

そして結末のオチにもやっぱり笑っちゃう。もうどうしようもないブラック・コメディ映画であります。