山麓日記帳

全ては消えゆく、雨の中の涙のように

「王様になれ」

と、言うわけで。
見てきましたピロウズ結成30周年記念劇場映画「王様になれ」
前もって、「これはピロウズとは一体、どういう人達に愛されたバンドであったのか?を残すための劇場映画」と知らされていたので。
「劇場映画!?大丈夫なのか??」が真っ先に思ったことでして…w
「どうしよう、なんかわけのわからんものすごい自己満足の妙ちきりんなクズ映画ができちゃったら…」(日本映画、この手の悲劇が多すぎる)
と、言うのがワシの一番の心配事だったんですが。

…見ましたよ、映画「王様になれ」 ウェブで予約まで取って。
この夜は21時に寝ちゃうワシが、はるばるキャナルシティまで出かけて行って、しかも19時35分上映開始の映画だと言うのに。
その結論は↓

すごい、ちゃんと「正しい」日本映画になっている。
抑制の効いた繊細で美しい表現の演出、演技、脚本。
日本人にしか描けない物語だと感じました。

なにか、特別な大きな事件が起きるわけでもない。
秘密の魔法の杖の一振りで劇的な変化が訪れて、すべての問題がたちまちのうちに解決するわけでもない。
美男美女でもない、普通の男女が出会い、恋をして、自分の人生と戦う物語です。

日本映画で概ね不満なのが、
「このキャラクターはそんな事は言わないやろー?」みたいな脚本が平気でまかり通るところです。
脚本が弱いって言い方でワシはよく言うんのですが。

それぞれ確固たる個性を持っているもんじゃないですか、人間て。
だから、当然、登場人物は考えていることも違うし、当然、その結果、言うことも違ってくる。
それは「あなたとワタシは別の人格を持つ別の人間だから」なんですよね。
ところが、コレがなかなか出来てない脚本をよく見かけます。
まるでひとつの人格で全登場人物をカバーしているような面妖な、ほぼホラーな設定も見かけます。

ところが、この「王様になれ」
みんなそれぞれのその行動にちゃんと理由があって(ライバルのイケイケカメラマンにすら)
その行動が登場人物に及ぼす影響がちゃんと描かれてしかるべき場所に帰結する。
これって文章に描くと簡単ですけど、これすらクリアできてない映画がなんと多いことか。

俳優でもあるオクイシュージさんの初監督作品ですが。
実はワシ、俳優が撮った初監督作品にはとんでもない名作もある(「狩人の夜」)ってことを知ってましたからね(;^ω^)
いやあ、この出来の良さはもう、ワシは予感してましたよ!!←さっきは色々不安に思ってたとか言うてたくせに

オクイ監督が向けるピロウズへのバスターズへの愛情、ひしひしと伝わってきました。
この世界の片隅で(!)つましく、でも必死に生きている人たちへのアンセムだとワシは受け取りましたよ。
それと、この映画、いわゆる悪人が一人も出てこないばかりか素敵な心優しいおじさんたちが出てくるんですね。
そこもとっても魅力的。
本当に優しい、美しい映画ですよコレは。そしてこれは、ワシの、あなたの、物語でもある。そこが本当に素晴らしい。