山麓日記帳

全ては消えゆく、雨の中の涙のように

なにやら話しがでかくなってきた?

と、言う訳で話しはアン・リー監督に戻る。
そもそもこの監督が最初にアカデミー賞を取ったのって「グリーン・デスティニーhttp://cinema.intercritique.com/movie.cgi?mid=7897
(今見ても不思議なタイトルだ…原題は「Crouching Tiger, Hidden Dragon」、中国語表記では「臥虎蔵龍」=劇中に出てくる伝説の名刀の名前である)
が最初であった。
この作品はかなり異色でして、リー監督自身、なんせ今までは「現代に生きる台湾人」か「19世紀のアメリカ人」「19世紀のイギリス人」「20世紀半ばのアメリカ人」しか描いてこなかったのに、突如、「神話の世界の中国人」を描いたのだ。
この世界では英雄は重力を無視して空を飛び、詩を吟じながら悪漢どもをバッタバッタと斬り倒す。
伝説の女悪党が出てくれば、伝説の女剣豪も出てきて、まーなんと言うか、「子供の頃に憧れた世界をそのまんま映画化してみました」な内容だった。

アン・リーほどのインテリが、アメリカに留学して十分な教育を受け、あんな白人文化バリバリの文芸作品までちゃんとモノにして見せる、中身はほとんど白人とでも言えるような名監督がこんな映画を敢えて作る??こんな事を普通の監督ならしますか!?」とすごーく当時意外だったのだが…

しかしまあ、コレ(中国武侠読み物の世界)がアン・リー自身のルーツというか、血肉を養って来た文化的な風土だと、作品自体を見た後にシミジミ感じる事が出来たんですな。
いわば、アレですよ。日本で言えば「チャンバラ」ですよ。

例えて言うならば、功なり名を遂げた日本人の名監督が、海外で長年活躍し、白人文化にドップリはまった文芸作品をちゃんと名作に仕上げて提示できる人が、突如日本に帰ってきて、巨額の費用をかけて「赤胴鈴之助」を作っちゃったような感じ?
(「赤胴鈴之助」の例えが古過ぎて若い人には判ってもらえない)
まあ…ハッキリ言えば「正気の沙汰ではない」わな(--;

しかし、この作品は思いの外高い評価を受けアカデミーでは外国語映画賞、撮影賞、作曲賞、美術賞の4部門を受賞。
そしてこの作品(とアカデミー賞4部門受賞)は、結果として思わぬ所で思わぬ人物に影響を与える事になる。
その男こそ、黄色い大地で野心満々の男=チャン・イーモウである。