山麓日記帳

全ては消えゆく、雨の中の涙のように

11月は逢魔が月 その8

あまりにもダンナが呑ん気なのでちょっと頭に来て、ダンナには怒られるかも知れないが、
「あのね、今日は昨日以上に疲れる日になるよ。アナタの人生において、多分、最悪の日になるんだから、覚悟しなさい」とワシは言った。
するとダンナはどうもワシが言った言葉の意味が判らなかったらしく、「はあ?」とすっとぼけた表情で居る。

「まあ、自分が自分のアイデンティティに直接関わるような空前絶後の恐怖体験をこれからやろうってのに、この覚悟の無さはスゴイな」と思いつつ(多分、ダンナの心が自分を傷つけまいと様々なブロックを張り巡らせて、ワシの声をダンナの心に届かせないようにしているからだろう)、出かけるダンナに荷物一式を渡す。

我が家の地下50メートルから組み上げた、花こう岩の岩盤の下から汲み上げた朝一番の清涼な水をペットボトルに入れて、
「旅立つホビットよ、貴男の今日の旅路は貴男が思っているよりも更に険しいものとなるでしょう。その旅路が無事であれと願って、私はこの『命の水』を貴男に授けます。貴男が生命の危機を感じた時、途方に暮れた時、この水を口に含んで貴男には私がついている事を思い出してください。貴男の今日の旅路がどうか無事でありますように」と言いつつ渡す。
「ナニそれ?」とダンナはキョトンとしているので、
「ワシはガラドリエルなのです」と言っておく(ガラドリエル= http://www.lotr.jp/legend/characters/galadriel.html

この日はたまたまパートが休みだったので、子供たちとダンナを送り出してから、家で電話番。
「はてさて、死体の発見は昼頃かのお」と思いつつとりあえず、「今は電話待ち」であった。

すると昼一番にダンナから電話。
「やっぱりカギは弟の家のカギだった。ドアが開いた」と言う。
「え?家の中に入ったの??」と言うと、「うん、今、家の中だけど…」と妙に落ち着いて話している、
「死体は?」と言うと、
「いや、どこにも居ない」とダンナ。

「そうか、自殺はワシの取り越し苦労か」と思い、「Nさんは?」と聞くと、
「もう少ししたらコッチに来てくれる約束になっている」とダンナは言う。
「でもね、家の中が異様にキチンと片づいて居るんだよ。弟の姿が無いのだけがすごく不自然な状態なんだ。一体、弟は何処に行ったんだろうか?」と話す。

「弟は、何もかもおいてホームレスにでもなりに行ったって事?」と不自然な気がした。