山麓日記帳

全ては消えゆく、雨の中の涙のように

思わぬ再会

出張のため、早朝の電車に乗ろうとしていたら、駅のホームで声をかけられた。
「ん?」と振り返るとなんとOくん。
昔、一緒に陶芸教室に通っていた青年である。

見ると、彼の顔色は相当悪く。
ズズ黒い粘土色であった。
「わ、どうしたのその顔色?身体はどうなの??」
思わず心配するワシ。

「今から精神科に安定剤と睡眠薬をもらいに行くところです」とOくん。
「まだ通っているんだ。今はどうしているの?」と訊くと、
「今は水彩画の教室に通っています。精神科の先生もそれがいいと言っているので」との事。

彼は高校一年生の時に精神病を発病して入院していた。
入院そのものは3ヶ月くらいで終わり、投薬を続けながら高校を編入して19歳で卒業した。

ワシと知り合った頃、彼は19歳の少年であった。
つるんとした肌の青白いヒョロヒョロした少年で。
不慣れな環境にいきなり放り込まれて(^^;オドオドしていたので、よく話しかけたりしていた。

彼がそもそも措置入院されたのも、「家の中で暴れた」とか。「突然髪の毛を金髪にした」とかその程度だった筈。
「え?そんな事で措置入院てさせられちゃうの?」とビックリしたものだった(青年期にはそんな事がある人も多少は居る気がしたので)

彼には自傷癖は無いし、「宇宙の声が聞こえる!」とか言う事も無いので。
「具体的な病名は何なんだろう?」といつも不思議に思っていた。
いつも恥ずかしそうにワシの会話に答えるが、話し続けていると実はよく笑うおとなしい真面目な男だとわかってくるので、ワシは彼のことは嫌いではない。

「僕はねー32歳になっちゃったんですよ!」とOくん。
「19歳の頃は、僕だって女の子とカフェでお茶したりするんだろうなーと思ってました。でも、今となってはそれも出来無いまま人生が終わる気がします…」
などと言う。
「ダメだよ!女の子とロマンチックなデートをするまでは死んではいけないよ」と言うワシ。
「まずは生活を改めなさい」と老婆心。

「夜は睡眠薬がないと眠れないの?」と訊くと、
「16歳ぐらいからこっち、飲まないで寝たことが無いのでわからない」との事。
「身体を動かしている?」と訊くと、
「いや、全然」との事。
「まずは水彩画教室に自転車で通いなさい」と言う。