山麓日記帳

全ては消えゆく、雨の中の涙のように

「犬身」 松浦理英子

久しぶりにめくりめくるような読書体験をいたしましたわ。感動!
このボリュームを一気に読ませる松浦理英子の手腕に感心することしきり。
では感想文、書きますー(・∀・)ノ

I wanna be your DOG. あるいは犬身=献身

このお話は中年にさしかかった独身女性が、取材で知り合った女性陶芸家が自分の飼い犬をかわいがっている様子を見て、子供の頃からの「私は人間じゃなくて犬ならよかったのに。犬になりたい」という強烈な衝動を思い出す事に始まります。

そこに現れたメフィストフェレスのような謎のバーテンダーに魂を渡す契約を結び、めでたく彼女は犬となり、女性陶芸家の飼い犬になるのですが。
そこで見知ってしまう、彼女の秘密。
それでも犬の身でありながら、彼女を守り、彼女に尽くす主人公(犬としての彼女の名は「ふさ」である<ふさわしい!)

犬と人との愛情物語のようにも見えるし、人間の女性同士の愛のようにも見えるし。不思議な構図になっております。

ちょうど、この本を読んでいる頃。
日曜の朝で薄らぼんやりと目が覚めた状態で布団をめくってうつらうつらとしていたら、愛犬バトンがやってきて、突然ワシのへそを「ペロリ」と舐めたんですねw
びっくりして目が覚めましたがw
この本にも主人公がへそを舐めるシーンが思い出として出てくるのですが。なるほどね。
犬にへそを舐められた経験は生まれて初めてだったのでビックリしましたが。こんな事もあるんですね。

別にバトンはこの本の主人公の様に、「実は元ニンゲン」で、ワシがこの本を読んでいるのを知ってわざとやったワケじゃないんでしょうけどねw
「おお、そんな事もあるかもなあ」という気にさせられましたわ。

そしてこの本の恐ろしいところは、「毒となる親」を見事に描いているところです。
子供を利用し、子供を潰し、自分の飾りに、自分の虚飾に使う親。
なかなか文学作品でコレを描いている人は少ないと思います(ネタは世間に山ほど転がっているのになあ)

そして主人公が慕う女性陶芸家をすり潰し、痛めつけるのは母親だけではありません。
子供がそのまま中年になったような怪物のようなサイコパスの兄。
この母と兄が彼女の人生を狂わせるわけですが、犬の主人公はそんな飼い主を助けたくて、まさに「献身」をやりのけるのであります。

献身=「献」とは神様への供物として、犬の肉を捧げる事

自己犠牲と愛の物語は怒涛の展開で思わぬハッピーエンドへと突き進んでゆきます。
イギー・ポップの名曲「アイワナビー・ユア・ドッグ」に乗せて語られる無私の愛の物語。
犬と人の無私の愛を経験したことのある人なら、涙なしには読めない物語であります。