山麓日記帳

全ては消えゆく、雨の中の涙のように

友達に告白を受けるワシ

昨日、バトンといつものように小走り散歩に出ててですね。
真夏の一時期を除いては今までも散歩コースを変えていたのですが。
最近は日差しも柔らかくなったし、南の海辺コースに行っているんですね。
んで。その時は、友達の家の前で折り返して帰ってくるのですが。昨日はちょっと変わっておりました。

ワシが彼女の家の前で踵を返して家に戻ろうとしていたら、
「◯◯さ〜〜ん」
とワシを呼ばわる声がします。

「ん?」と見渡すと、友人が納屋の影に半身隠れてワシに向かって「オイデオイデ」をしているんですね。
「あれ?こんな事、前にもあったよね??いや、あれは職場でだった」
と思いつつ、彼女のそばに近寄っていくと、彼女がヒソヒソ声で話し始めました。

実は私乳がんになっちゃって

ああ、なるほど。君も同じ十字架を背負うか。
思わず、「何処まで診断は下っているの?」と聞くと、
「昨日、再検査だった」との事。
なるほど、手術前の精密検査までは行ってない段階ですね。

「大丈夫!手術は寝ている間に終わるから!!乳がんでもワシはこうやって生きてて元気だから」
としか言えませんでしたね。
よく誤解されるのは、「乳がんはとっちゃえば大丈夫なんでしょう?」ということです。
トンデモナイ!乳がんは全身病ですよ。

全身何処にでも転移します。
転移したり、再発したりしなければ儲けものです。
乳がんで亡くなった人も知っているし、生き延びている人も知っています。
一概には言えない病気ですけど。この場合、
「私、胆石の時は色んな人に言って大騒ぎで入院したけど、この、乳がんだけは誰にも言えない」
と落ち込んでいる彼女の姿を見たら、
「大丈夫だよ、なんでも相談して」
としか言えないじゃないですか。

彼女の場合、閉経後の発覚という事で、乳がんでもワシとはタイプが違うようです。
主治医からも、
抗癌剤で髪の毛が抜けるので、カツラなり帽子なり買っておいた方がいいかもです」
と言われたそうで…
ワシは自分で勝手に気を回してカツラを買っておりましたが、使うことがなかったので、
「カツラ、使ってないのがあるからあげるよ!抗癌剤の副作用も人によって本当に様々だから、前もって心配しても仕方ないよ。副作用が強かったらいっそ入院しちゃえばいいんだよ」
と言うしかなかったですね…。

ワシが職場で総務の女性に金庫室の前で「オイデオイデ」されて、
「実は私も乳がんで部分切除したんです」と告白された時も驚きましたが。
なるほど、この病気は、同じものを背負っている人にしか告白できないものかもしれません(理解してもらえないし)

孤独で心細くて一人ぼっちになっているときに、歯を食いしばって家族に不安を与えまいと、つとめて家庭内では明るく振舞い。
「大丈夫よ!私は死なないから。この病気を克服するから」
と宣言するときの張り裂けるような悲しみは、誰にも理解されないものです。

全身病だからどこに転移してもおかしくない。
苦しんで死ぬことになるかもしれない。
それでもそんな不安を否定して、家庭を切り盛りしていかなきゃいけないんですよ。その苦しみは同じ病気の人にしかわからない。
乳がんでよかったね!」と言われても「本当に!ラッキーだったわ」と笑ってなければならない。
孤独と戦うのは女の常とは言え、去年のワシは心の頼りにしていたボイスも亡くして…
本当に辛かったですね。

誰にも頼ることが出来ない。誰にも甘えられないままで、自分の病気、自分の孤独を抱えて戦わなければならない。
彼女の今の気持ちが、一番良くわかるのは多分、ワシです。