山麓日記帳

全ては消えゆく、雨の中の涙のように

ポエムの時間です

ボイス

その名前を口に出して呼べば
目の前に海が広がる

冬の海
黒い雲が分厚くおおった玄界灘
私とお前は二人っきりで海を眺めた

黒い空と鉛色の海
どうどうと響き渡る海鳴りの中でたった2つの命が灯っていた

風に煽られて髪は乱れ、砂丘の砂は吹き上げられるけど
お互いの躰は暖かい
トゲトゲの毛並みが突き刺さっても、
私はお前を抱きしめる

うっとりと目を閉じて私に寄りかかるお前
言葉はなくても二人の気持ちは通い合う
お前の耳から潮の匂いがする
お前は私にとっての自然、生まれ持ったものの象徴
自由、無私の愛情、野生

雨が降ると、お前のことが心配になる
寒くないかい?山の上でひとりぼっちで

お前は「マテ」が得意だったから、ずーっとずーっとそこで待っててくれるよね
ボイス、ボイス
私の宝物
神様がくれた運命の犬

その生涯で一度も他所の犬と喧嘩をしなかった
私を噛まなかった
大きくて無口な犬

寂しくなったら何度でもその名前を呼ぶよ
ボイス、ボイス こっちにおいで
お母さんに寄りかかっていいよ
甘えなさい
お母さんは何度でもお前を抱きしめるよ