山麓日記帳

全ては消えゆく、雨の中の涙のように

本能の人、田渕ひさ子

ステージの上は死屍累々。
「うわ、これとモノスッゴクよく似た風景を、つい最近、Zeppで見かけた気がするなあワシ」(^^;;<正直者

胸元がググッと開いた白いワンピース姿にどぎついメイク(マブタが真っ赤っ赤ー)をした椎名林檎のやや後ろで、パッツンとカットされたコケシみたいなストレートのオカッパ頭の田渕ひさ子が、ギンガムチェックのいつものシャツにジーンズ姿で、ノーメイクで。
愛機のフェンダージャズマスターを抱えてピョンピョン飛び跳ねながら爆音を奏でているダケなのに…
この存在感!コレは何!?
すげえ、このステージ上は既に死屍累々ですよ!?分かってますか?
一体、ココで起きている、コレはナンデスカ?戦争ですか??

イヤ、勿論そうじゃないって事ぐらい、ワシだって知ってますよ。
勿論、コレで椎名林檎を貶めるつもりではないので、念のため。

いや、もうココにあるのは純粋な「音楽の才能」
天から与えられた「何か」を持つ人がココに居るという証拠DVDですね。

「本物の何か」が、考えて作られたもの、意図して向けられた、その示唆される方向、そんなモノを次々となぎ倒して行って、一人厳然と屹立し、存在を示し、そして輝く姿がありありと記録されているのが、凄い。
ベーシスト三人がことごとく、たった一本のギターによって瞬時にして討ち死に状態なのが、怖い。
「三人がかりでもダメでしたかー?」と目を伏せる事しか出来ません>観客

アレだけリハーサル中のスタジオ内では寡黙で、
「一体、皆が何の話をしているのか私、ヨクワカンナイ」という風情だった田渕ひさ子が、ステージ上ではその本能で(としか言いようが無い)楽曲を理解し、表現する、その瞬発力が物凄いんです。

「なんだよ、『本能』なんて曲書いてたのに、全然、ご本人は本能の人じゃなかったんだなあ、椎名林檎」が一番正直な感想。
その動物的とも言える感覚とセンスで楽曲を表現する田渕ひさ子こそが、まさに「本能の人」だったんですね。
彼女が奏でるその爆音の先にあるもの。
もっとヒリヒリとした乾いていながら同時に湿った「何か」

うすっぺらい歌詞がめくれ上がっていく。
飾ったものが剥がれ落ちてゆく。
その自意識を脱ぎ捨てなさい。自分の感覚だけを信じて。
そしてどんどん剥き身になったこれらの楽曲が目指す方向、コレは一体何処へ向かおうとする音楽なのか?

スリルに満ちたまま、ライブは続く。
この話しもまだ続きます。