山麓日記帳

全ては消えゆく、雨の中の涙のように

ボイス追悼 7

一昨日、弐号機が突然、「ボイちゃんてすごく男前でハンサムだったよねー」とシミジミ言ってましたね。
その直後には、「でもバトンは全然そんな感じじゃないよねw」と半笑いで言ってましたが。

そうそう。ボイスは女なら誰でも夢中になるタイプのイイオトコでしたなw
家の中に夫より頼りになる男がもう一人居るというのは(^_^;)ワシとしてはとても心強かったですね。

ワシは夫のことは…実はほぼアテにしてないというか。色々と最初から諦めている部分があるので、「安心して頼れる存在」では全然ないんですよ(苦笑)
色々と頼りに出来ない人なので、色々と気を回して見張ってなければならない。家庭をうまく回していくためにはワシが頑張らなければならない。
最初から「居ないもの」と諦めて、ワシが強く雄々しく居なければならない。そんな感じだったんですね、二人の関係が始まって以来、ずーっとそうだったので、「誰にも頼らない」という姿勢で生きてきたワシにとって。
ボイスはほぼ、生まれて初めて「心から頼ることが出来る存在」だったんですよ。
ヒドイ人生(^^;だよね、「犬が一番頼りになる」って。

では、今日は、それを決定づけた日のことを書きましょう。

ボイス、イノシシを倒す

1999年1月31日。
ワシはいつもの様にジャージの上にフリースのジャケットを着てボイスと散歩に出ておりました。
まさに時節柄狩猟シーズンでして。
溜池の堤の上で猟銃を抱えている人を横目で見ながら散歩しておりまして。
川沿いのみかん山の横の道を歩いておりましたら、山へと続く橋のところでイノシシと出くわしてしまいました。

ワシもビックリしたけど、イノシシもビックリしてて。慌ててUターンしてヤブの中へ走って行きました。
「こんな昼の日中にイノシシって!」と思わず叫ぶワシ。
するとボイスが瞬時に反応。
イノシシはまだ子供で30kgほどの大きさだったので、イノシシを見て興奮するボイスに
「座れ」と命令するとおとなしく即座にスッと座ったので、思わずリードを外して、「行って!」と言うと、ボイスがものすごい勢いでイノシシの追跡を開始。
「このまま山の奥まで追い払ってくれるといいか」
と思いつつ見ていると、ヤブの奥に丸く開けた荒地があり周囲は山に囲まれたすり鉢状になっておりましたが。
その斜面を逃げまわるイノシシの姿が見えた…と思ったら、あっという間にボイスが追いついて、ボイスが前足をかけるとイノシシはそのまま斜面から滑り落ちて行き、ボイスがそこに襲いかかって2頭はグルグルと転げながら斜面から地面へと落ちてくるのが見えました。
「えっ、ボイス!?」と叫びましたが、地面に落ちた2頭の姿はヤブで見えません。
ヤブの奥でボイスは無言のままイノシシと戦っているようで、イノシシの悲鳴は聞こえてきますが、ボイスの声は一言も聞こえて来ません。
ヤブの奥の騒動はやがて静かになりましたが、何故か、ヤブの奥からは「ガ〜〜ガ〜〜」という鴨の鳴き声?のような不思議な声が聞こえてきます。
「何が起きたの?まさか、ボイスがイノシシを殺したの??」
とオロオロしながら、「ボイスー!ボイスー!!」と呼びますが返事がありません。
戻ってくる様子もないし…あの鴨の鳴き声のようなものは、おそらくイノシシの喉笛にボイスが噛み付いて離さないのでイノシシの喉から漏れている音だと思うのですが。
恐ろしくてヤブをこいで奥まで入っててその場を確認することが出来ません。

「と、とりあえず、誰か助けを」
とその場を離れて走って助けを求めに行くと、丁度畑で作業中のおじさんがいたので、
「助けて下さい!」と言いに行くと、
「なーに、イノシシ仕留めたら帰ってくるさ」と笑われて(:D)| ̄|_
「あ。この人はダメだ」と諦めて、「そうだ、さっき溜池のところにハンター(60代男性)が居たじゃん。あの人に頼もう!」
と溜池まで走って戻りますと、そのハンターさん、まだいらっしゃったんですね。

「すいませんー、助けてくださいー!」と声をかけるとハンターさん、すぐに来てくださって。
ハンターさんの車に乗せてもらって「現場はこっちです!」とか道案内しているワシ(子供には「知らない人の車になんか乗ったら絶対にダメよ!」とか言っているくせに)

さて。事件の現場に戻ると、すり鉢状のヤブの広場は静まり返っておりまして。
「もうすべてが終わったの?ボイスは野生が目覚めて、山奥に行ってしまったとか??」
と思いながら、ヤブの奥に目を凝らして見つめておりますと…

ヤブの奥でひらりひらりと左右に飛び跳ねているボイスのお尻の真っ白な毛が見えました。
「あ。ボイス居た!」
と大声で、「ボイスー!!」と呼んで、遠くからの呼び戻しの時に使っていた指笛を吹き鳴らすと、
ヤブの奥からボイスが満面の笑顔で全速力で戻ってきたんですね。
いつもの呼び戻しの時のように、地面に片膝をつけて両腕を広げて「ボイス、おいでー」と呼ぶと。
ボイスは腕の中にがっちりと戻ってきてくれました。

「ああ、良かったボイス!無事だった!!」
と抱きしめていたら、「プン」と鉄サビの匂いがして。
「あれ?」と思って「怪我したの??」と全身の毛をもふもふしながらまさぐっていたのですが、怪我はないようで。
「え?なんで??」
とボイスの顔を見たら、口元にが…

感動の再会をしておりましたら背後から猟銃構えたハンターさんが、
「イノシシはどこっ!?」とおっしゃるんですね。
ワシはワカラナイので、ボイスにリードをつなぎながら「ボイス、イノシシはどこ?連れて行って」と言うと。
さすがw名犬ボイスは一直線にイノシシのところまでワシらを連れて行ってくれましたよ。

イノシシはすり鉢状の斜面のすぐ下で、絶命しておりました。
死体をチェックしながらそのハンターさんが、「この背中の傷(ボイスの前足の爪あと)すごい」とおっしゃって。
イノシシの首の後ろ耳の付け根のすぐ下にあるボイスの咬み傷を見て、
「急所を一撃かよ」とおっしゃって。

…何故か傷ついた気になるワシ(とボイス)
「このイノシシさしあげますよ」と言うと、
「え?いいの?僕、なんにもしてないよ?」とハンターさん大喜び。

「うちに持って帰っても埋めるしかできませんので、良かったらお持ち帰りください」と言うと、
「えー。ラッキーだなあ。このあたりはイノシシが沢山居て、とり放題って聞いたから初めて来たんだけど、儲かっちゃったなあ!」とおっしゃってくださいました。
「ありがとうございました」とお礼を言うと、そのハンターさんが別れ際に、
「…でもその犬、スゴイよね」と怯えたような目で見てくるので、またしても傷ついた気になるワシ(とボイス)