山麓日記帳

全ては消えゆく、雨の中の涙のように

カート・コバーン All apologies

たまたまテレビでやっていたので観賞。
非常に優れたドキュメンタリー。☆=4

海外のドキュメンタリーでいつも感心する事は、膨大なインタビューと取材を経て、どうかすると人によっては真反対の事を喋ったりするんだが、それでも尚、その綿密な取材を重ねるうちにあらゆる角度からその人物を照らし出し、最終的にはホログラムのように浮き彫りにして見せるという手法である。
この作品も然り。

カート・コバーンの極貧の少年時代?青年時代の姿が非常に興味深かった。
かつての主幹産業である林業がすたれ、すっかり寂れ切って__それこそホラー映画みたいに人気の無い、活気の無いアメリカ北西部の港町アヴァディーン。
そこでささやかながら幸せな生活を送っていた筈なのに、両親の離婚を契機に彼の人生は壊れ始める。

最終的には住む家も無くし、路上生活のホームレスとなり極貧の生活を送りながら、町の質屋で手にしたギターを片手に彼は世界を目指すのだ。
「誰かに愛されたい」「人に認められたい」「自分の孤独を解消したい」
彼のこの焼けつくような渇望は、その音楽への情熱と相まって、音の激しさ、切なさ、痛みを含んだ歌詞は同時代を生きる人々の心を打つ。
世界は瞬く間に彼を迎え入れるのだ。

カート・コバーンはその率いるバンドNirvanaと共に世界的な名声を博し、世界中のヒットチャートを席巻し、妻を得て、娘も得る。
さあ、コレなら彼の心の傷はもう癒えたのかな?

NO.

彼は音楽への愛を見失ってしまう。
自分を支え、自分を生かしてきてくれた筈の音楽そのものにもう喜びを見いだせなくなってしまうのだ。
ワールドツアーで疲弊し、心身ともにズタボロになって、消費社会に自分自身が消耗させられていくのが耐えられなかったのだろう。
妻がいても娘がいても、彼の救いにはならなかったのだ。

自分を自分たらしめていた筈の音楽が、既に喜びではなく。
自分を追い込むFatalな存在へと変わってしまったのだ。

非常にコレは気の毒な事だと思う。1ファンとして、とても残念に思う事だ。
そしてあの衝撃的だった(が、非常に自然な流れにも思えた)シアトルの自宅での猟銃自殺。
R.I.P.

以前、Nirvana側が作った伝記映画「Live!Tonight!Sold out!!」を観たが。
あれを見て漠然と感じていたモノの正体がコレでハッキリと見えてきた。

昔のGFと元メンバーの話しが本当に心を打つ。
この冷血のワシの目にも涙が。