山麓日記帳

全ては消えゆく、雨の中の涙のように

国宝 油滴天目茶碗

勿論、この「国宝 油滴天目茶碗」の事は以前から知ってました。
散々、テレビでも見た事がありますし、写真集でも見た事があります。
でも本物の放つオーラは物凄いものがあって、いざ、本物を目の前にしてしまうと、「印象が全然違う!ウソだこんなの!!」と、なんか騙されている様な気持ちになりましたよ。

まず「あまりにも印象が違う」のは「存在感」でしたね。
もう、圧倒的です。
こんな物凄い物件に触れたのは、興福寺展で阿修羅像を見た時以来です。

こんな、両手の平にすっぽりと納まってしまいそうなくらい、小さい茶碗なのに、物凄い存在感なんですよ。
「オレはココに居るぜ!」って全身で叫んでいるみたいな?<なんて頭が悪い言い回し

とにかく、その展示室がその茶碗たった一個の存在感により、全ての空気が濃密なナニカによって満たされている感じ?とでも言うのか。
まあ、一言で言えば「ただ事でない雰囲気」ですよ。茶碗一個のせいで。

写真や映像で見た限りでは、「この茶碗の何処が凄いのか全然ワカンナイ」が正直な感想だったんですが。いやー。本物は凄いです。
その色、姿、形。全てが「破格」というか、常識破り!としか言えない印象です。

その形はどっちかというと、非常に「すっ」とした姿です。
朝顔が、夏の夜明け前に花開こうとする、その途中の形。
開ききる前の、寸前の、太陽の光の矢を受けきれる前の形です。

その口径の部分には「コレデモカ」と金が貼られていて、燦然と輝いています。
全体の色は黒?濃紺の「ミッドナイトブルー」の印象。
つまり、朝顔の奥になるにつれ、その「ミッドナイトブルー」の色は深みを増し、その奥に目をやればやるほど、その夜の、闇の底に向かって広がる更に果てのない「黒」を連想させるのです。

「これはブラックホールだなあ、吸い込まれそうだ」と言いつつ、魅入られてしまうワシ。

その「ミッドナイトブルー」の肌の上には銀色の星々を宿し、たった10センチかそこいらの茶碗の内側と外側に「満点の星空」を見せてくれているのです。
「自分がちっちゃくなった気持ちがするなあ」
もうこう感じた時点で「ワシの負け」ですよ。
ワシはもうこの茶碗の宇宙の中に閉じこめられてしまったのです。

茶碗の底で足元に広がるブラックホールを覗き込みながらも、はるか頭上で燃え盛る太陽のコロナに思いをはせるワシでありました。