山麓日記帳

全ては消えゆく、雨の中の涙のように

タイニー・ボート 三番勝負 第三回

つまり、コレはアレだ。
「くさやの干物を世界中に広めようと科学的な技術を駆使してその臭いを抜いてみた所、
なんと臭みと一緒にその旨味の大半までもが抜け切っちゃって、でき上がったものは
なんだか全然別な物になってしまいました」って感じに近いか?

このアコースティックバージョンで歌われる「タイニー・ボート」はなんとも優しくて
儚げで、しかも伸びやかで綺麗な世界である。
それと同時に歌の中で暖かい感情がグルグルと渦を巻いていて、聴いているとなんだか
「シアワセ♪」な気持ちになってくるから不思議だ。
ピロウズというのはなんとも動物的なグルーヴ感を持つバンドで、音の中でそれぞれが
跳ねていたり飛んでいたりグルグル捩れているような、バラバラな「乗り」なのに、
それが一つに合わさると、不思議な空気感や「うねり」が生まれてくる。
その部分が如実に顕れたアコースティックバージョン「タイニー・ボート」である。

「タイニー・ボート」とは曲を知らない人にちょっと解説するならば、
「純粋な恋の喜びを歌った歌」なのだが、「若い恋」に相応しい、「ね?こんなに好きなんだから
ずーっと一緒に居ようよね?ね?」みたいな感じの歌である。
そのありのままの感じをそのまま歌ったのがこの、スタジオライブでのアコースティックバージョン
であると感じる。

で、その原曲の感じを、「もっと初めて聴いた人にも分かり易いように、アクを抜いて、
演奏も精度を上げて、耳に優しく、歌のクセも無くして、さらっと聴きやすいように粉飾した結果」が
シングル盤の「タイニー・ボート」になっちゃったんだろうなという気がするのだ。

「多分、メーカーも事務所もアーティスト本人も売れたくて売れたくて仕方なかったんだろうねえ」
と痛々しいものを見るような目で見てしまうのだが、きっとソレは本当の事。
ヤッチマッタ過去はもう取り返しがつかない。
今更世に出てしまったものを引っ込めるという事は出来ない。

多分、「この原曲にこんなに手を加えて、こんなに万人受けするようなシングルに
生まれ変わったんですよ!」と当時、言いたかったんだろうが。
後になって考えてみれば、「なんでこんないい曲を悪いようにいじっちゃったのよ?」と
いう結果になってしまった。
でもこのアコースティックバージョンのおかげで、ワシはこの曲の良さに開眼したんだから。
「記録に残しておいてもらってヨカッタ」である。