山麓日記帳

全ては消えゆく、雨の中の涙のように

11月は逢魔が月 その5

「チャイムを鳴らしても返事が無い」って事は、「出かけている」か「もう中で死んでいる」かのドッチかなんだろうが、ワシとしては「中で死んでいるな」と思っていた。
なぜそう思ったかと言うと、「居なくなりますから」という言い方にしても、やはり、あの家、「異様に整理整頓されたゴミ屋敷」を引っ越すなんて事は、まず、義弟にしてみればありえない訳であるので。
あんな大事大事に抱え込んだ、長年にわたってコレクションしてきた宝物(他人にとっては、ワシにとっても「ゴミ」でしかナイもの)をドコカへ移そうだなんて、そんな事は、多分100%と言えるくらいに「ありえない事」なんだもの。

あの、家の中にそびえるバベルの塔
アレを掘り起こして、彼が引っ越しの準備をする様子が全然想像がつかないのだもの…

で、義弟が荷物にまとめて送ってきた、ダンナの荷物とは如何なる内容であるか?と言えば、赤ん坊の頃の写真、小中、高校の成績表(ひっくり返るほど悪い成績)、小学生の時にダンナが使っていた分度器とかタンバリン(myタンバリンとか持ってたのかよ。オマイはスパイダースかよ)、小学生の時に使っていたトランプとか、あー、もう、とにかく、「どうでもいいもの」バッカリなのよ。
「もう、ゴミにして捨てちゃって下さい」な物件が一つ一つ丁寧にティッシュにくるまれて、キチンと梱包されていた。
「このゴミに対する異様なまでの丁寧な姿勢が怖い…」(人間に対しては残虐非道の限りを尽くしてきたくせに_本人に悪気は無いにせよ_このモノに対する思い入れの深さと愛情の濃さって、実はかなり怖いものなんではないか?)と感じてしまうワシだった。

で、夕方になり、ダンナは「弟に会ってくる」と車で出かけた。
見送りながら、「会えるとは思えないけどね…」とワシが言うと、
「なんでそんなイジワルな事ばっかり言うのよ」とダンナ、ちょっと怒る。

いやあ、ワシだったらこの事態では「自分で死体を発見する覚悟」で出かけると思うんだよねえ…
どうもダンナはワシより現状認識感覚が鈍くて、思いっきりアラームやらサイレンやらが鳴って、パトランプがグールグル回っているのに、全然気がつかなかったりするんだよねえ。
「まあ、いいや。一人で行かせるのは心配だけど、頑張って行ってらっしゃい」と送り出す。
ダンナは希代の方向音痴男であるので、一人で出かけさせるのが実はイチバン心配だった。